エレベータ
女「こんばんわ、何階ですか?」
男「10階です」
女「わー、同じ階ですね、偶然偶然」
男「…えーと、あんま見ない顔ですけど、最近このマンションに引っ越してきました?」
女「あ、違いますよ。10階に友だちが住んでて、それで、会いに行くんですよ」
男「へえ、、、そうなんですか」
ブウウウーーン
女「わわわ」
男「んん??」
焦った様子の男の声「現在、停電のため、一時的にエレベータの動作が停止しております。復旧まで、今しばらくお待ちください。現在、停電のため、一時的に…」
女「うわー、最悪だー」
男「運が悪いですね」
女「しばらく待ちましょうか」
男「そうですねえ」
(10分)
女「もー、どんだけ時間かかってんですかね、イライラしてきましたよ」
男「そうですねえ、ちょっと時間がかかりすぎな感じしますよね。」
女「はあ、ちょっと寝ちゃおうかな…」
男「ハハ、よくこの状況でそんなことできますね。おかしいですよ、あなた。て、あれ?、、そんなことしてる場合じゃないですよ、さっきからぼーっとしてますけど、友達に連絡入れなくていいんですか?こんなに遅れてるのに」
女「あ、あー、そうでしたね、連絡入れないと、携帯携帯」
(携帯入力)
女「ふー。おっけ。」
男「あ、あの、申し訳ない、これは勝手に見てた僕が悪かったなとは思うんですけど、あの、特にチャットアプリ、開いてなかったですよね?」
女「え、いや、そんな、文章入力してましたし、」
男「メモ帳アプリでしたよね?連絡じゃなくてただ何かメモしてただけですよね」
女「…」
男「…」
女「い、いやー、でもこのマンションクソですよね、初めて乗った私が故障に立ち会うくらいですからしょっちゅう壊れてるんじゃないですか?クソです、クソ。あー、ごめんなさいね、住人の目の前でマンションの悪口言っちゃって。」
男「いや、全然大丈夫ですよ、僕もそもそもこのマンションの住人じゃないですし」
女「え?じゃあなんでこのエレベータに乗ってるんですか?」
男「い、いや、なんていうのかな、色々あって、僕も10階の人に用事があって行くんですよ」
女「んー、でも、私のこと見て、『君、あんま見ない顔だけど』とか、言ってましたよね?よく見る顔とかって住人にしかわからないと思うんですけど」
男「…」
女「…」
男「えと、その袋、何が入ってるんですか?結構大きいように見えますけど」
女「あー、プレゼントですよ、友達への、日頃の感謝を込めてって感じで、さっき駅で一生懸命迷って選んできたんですよ」
男「ふーん。食べ物ですか?少し、、肉の匂いがするので。」
女「あー、そうですね、お肉です。お肉なので、匂いとか気になっちゃいますよね、こんな狭い中すいません。」
男「いえいえ、お気になさらず、いやー、でも、誕生日にお肉をあげるのって結構珍しいですね」
女「あー、あれですよ、ハンバーグを作ってあげようと思ってて、その材料です」
男「ん?ハンバーグの材料をわざわざ駅で一生懸命迷って選んだんですか?」
女「いや、まあ、食材とかこだわる方なんです」
男「へえ、まあ、、、、ていうか、そもそもさっきちょっと見えたんですけど」
女「…」
男「それ、頭ですよね、人間の。髪の毛もさっき見えちゃってて、ずっしり重そうだし」
女「…」
男「肉って言いましたけど、どっちかというと完全に腐った感じの臭いがしますもん。誰の頭部です?どういうわけあって運んでいるんです?」
女「…」
男「頭部以外の他の部分はどうしたんですか?」
女「…」
男「って、ハハ、そんなわけないですよね、なんかの見間違いですね。脅しちゃってすいません」
女「…」
(10分)
男「遅いですね」
女「そうですね」
男「暇ですね」
女「あの、ちょっと暇つぶしにゲームでもしません?」
男「お、ゲームですか、いいですね」
女「大声で叫ぶってだけのゲーム。相手より大きい声だったら勝ち、馬鹿みたいだけど、頭空っぽになれて楽しいんですよ。例えば『お待ちください!』とか」
男「えーー、、恥ずかしいですね、お待ちください!こうです?」
女「そうそう、そんな感じです!」
男「お待ちください!!」
女「うん、やっぱり!」
男「?」
女「あなた、さっきのエスカレータ停止報告のアナウンスの人ですよね?声が本当にそっくりで。特にそこの、『今しばらくお待ちください!』ってところ」
男「…」
女「生放送っぽくしゃべってたけど、あなたが録音したものだったってことですよね?」
男「…」
女「あなたがこのエレベータを止めたってこと、、、ですよね?」
男「…」
女「止まった時も慣れてる感じでしたし、何回もこうやって誰かと2人きりになった時、止めて遊んでたり、、とか」
男「…」
女「その黒いバッグも怪しいです、なんか入ってそうですし、、、」
男「…」
女「んー、、まあ、妄想が膨らんじゃいましたね、いやあ、でも、声がこんだけそっくりてのもすごく偶然ですよねーー」
男「ですね…」
女「アハハ、ていうか、フフ、さっき言ってましたけど、私のこの荷物、これ、本当に頭部ですよ。ある男の、見ます?」
男「いやいや、そんなわけないでしょう、いいよ、別にいいよ」
女「そうですか、こっちの方のカバンには人体解体キットが入ってるんですけど、それも見ないですか?」
男「フフ、ないもんは見れないだろ、どうせないんだから、変に脅さないでくださいよ」
女「ハハハハハ」
男「ハハハハハ」
女「10階の4号室の男なんですけどね」
男「何が?」
女「いや、なんでもないです、フフ。ハハハハハ」
男「いや、フフ、さっきから、何言ってるか、わかんないよ、フフ」
女「初めは、些細な喧嘩だったんですけどね、ムカついちゃって、フフ、フライパンで、何発も、ハハ」
男「すごい、強い、強い、アハハ」
女「動かなくなって、それで、全部全部、隠そうと思って、死体を、ええ、捨てに行ったんですけど、頭だけは、愛おしくて、やっぱり好きで、涙が出て来て、持って帰って来ちゃって、」
男「感情が、出たんだね、ハハ」
女「今から、この状態の彼と、4号室で、フフ、過ごすつもりだったんですが、ハハ」
男「2人きりじゃないか、2人きり、ひゅうひゅう」
女「やめてくださいよ、ハハ、そうだ、あなたも、そのカバンの中、見せてくださいよ」
男「いやだよ。こいつはとっておきなんだ」
女「何が入ってるんです?」
男「そりゃあもう、ここには女の小指がいくつか。今のところは4人分あってね、2本は腐りかけてる。」
女「、、、。フフ、あなたも、同じような冗談言うじゃないですか、ハハ、アハハ、指以外の部分はどうしたんです、○○山に捨てました?」
男「そうそう!その山ですよ!ハハ、考えることは一緒ですね」
女「あそこしか、フフ、ないですもんね」
男「エレベータは逃げられないから一番好きなんです。僕はここの管理人でしてね、住んではいないんですけど、こうしてたまに賃貸料以上のものをもらいに来るんです。逃げられない空間で、避けられない死への恐怖に怯えた女の顔が最高でしてね、やめられなくなっちゃったんです」
女「フフ、とんでもない変態ですね、フフ、」
男「腐っちゃった指がもったいなくてね、早くなまものの保存の方法を学んでコレクションしたいんだけど、勉強する時間がなくてね。」
女「それは、それは、しっかりしてくださいよ」
男「死体の臭いは嗅ぎ慣れているのであなたが何か持ってるってすぐわかりましてね、フフ、話が聞きたくて、思わずエレベータ、止めちゃいましたよ、ハハ」
女「じゃあ私、この後、殺されてしまいますね、ハハ」
男「まあまあ、今のも全部冗談ですけどね」
女「また、ハハ」
(1分間)(笑い声)
男「よし、じゃあそろそろ始めますか」
女「ハハ、ええ、ええ、やりましょう、フフフ」
何が合意したのかはわからないが、2人はお互いのカバンの中身を床にぶちまけた、それは、
それは、でかいひき肉と、会社の書類だった。
男「フフ、僕は営業でしてね、しょっちゅうここにくるんです、だから住んでる人はだいたい知ってるんですよ。」
女「わ、私も、友達へのサプライズで来てるから、連絡も何も取る必要が、ないんですよ、アハハ」
男「ハハハハハ」
女「ウフフフフ」
男「でも今日は気が変わりました」
女「偶然ですね、私もです」
男「お互いが積み重ねた嘘でしたが、真実だったほうが、美しく、あるべき形に収まると思うんです」
女「ええ、ええ、その通り」
男「だから我々は生まれ変わって10階に降り立つとしましょう」
女「ええ、ええ、美しく、仕上げましょう」
男「4号室に友達でしたよね、実は私も今日の営業、そこもまわることになってます。」
女「ベストです。ベスト、チャンスが、そこに、ベストです」
男「仕上げましょう」
女「やりましょう、やりましょう」
故障からエレベータが立ち直り、10階で扉が開く。
血の気を帯びた目をした男女が、にこやかな顔で、降りた。